インプラント治療中の「仮歯」
とは?
期間や役割・注意点
について解説
インプラントが骨としっかり結合し、最終的な人工歯が装着されるまでには、一般的に数ヶ月という時間がかかります。その間、食事や会話、さらには見た目の問題を補うために使われるのが仮歯です。
仮歯と聞くと、あくまで一時的な代用品というイメージを持たれるかもしれません。
しかし、実際には仮歯の果たす役割は非常に多く、単なるつなぎではありません。
審美性を保つだけでなく、噛み合わせや歯肉の形を整えることで、インプラントの治療成功に直接関わってくる重要な処置です。
この記事では、インプラント治療における仮歯の役割、入るタイミング、装着期間の目安、取り扱い時の注意点、そして最終的な人工歯との違いまで、詳しく分かりやすく解説していきます。
インプラント治療における
仮歯とは

見た目を保つ
インプラント治療は数ヵ月に渡るため、その期間歯が欠損したままだと、患者様の負担が大きくなります。
仮歯を装着することで、歯がない期間があるという外見上の問題を最小限に抑えられ、社会生活を送りやすくなります。
特に仕事や接客業など、人前に立つ機会の多い方にとって、仮歯の役割は大きいといえます。
咀嚼や会話などを支える
歯の欠損があると、食べ物を噛みにくくなったり、言葉がはっきり発音できなくなったりと、日常生活にさまざまな支障が出てきます。
仮歯があることで、ある程度の咀嚼機能や発音の機能を補えます。
ただし強度が劣るため、硬すぎるものを噛むと破損のリスクがあります。
歯肉や周囲組織の形を整える
インプラント治療では、人工歯と歯肉の境目の自然なラインを形成することが見た目の良さに直結します。
仮歯の形態や位置は、歯肉に軽く圧をかけるように設計されており、歯肉の形を整える働きがあります。
特に前歯では、仮歯で歯肉形態を調整することが、仕上がりの良さに大きく影響します。
上部構造の設計の参考になる
仮歯で得られた情報は、最終的な人工歯を設計する際に非常に役立ちます。
咬合圧のかかり方や審美的なバランス、患者様の使い心地などをもとに、より精密に上部構造の形状や色調を決定できます。
特に複数本に渡るインプラント治療では、仮歯による調整期間があるかどうかで、最終的な治療の質が大きく変わるといっても過言ではありません。
仮歯の期間はどのくらい?

インプラント治療における仮歯の装着期間は、患者様の顎の骨の状態や治療法、インプラントと骨が結合するスピードなどによって異なります。
一般的には即時負荷型と従来型の2つのパターンがあります。
まず即時負荷型では、インプラントを埋め込んだその日のうちに仮歯を装着します。
この方法は、インプラントが十分に安定しており、骨の質や量が良好であることが条件となります。
仮歯を装着したまま、インプラントが骨と結合するオッセオインテグレーションの期間を過ごし、おおよそ3ヶ月ほど経過した後に上部構造の作製へと移行します。
この方式のメリットは、治療直後から見た目を回復でき、会話や食事などの日常生活への支障が最小限に抑えられる点にあります。
また、インプラント手術後の7日目〜10日目に行われる抜糸を経てから、仮歯を装着する方法もあります。
この場合は、傷口の状態を確認したうえで仮歯を入れるため、組織の安定性や清掃性の確保がしやすいというメリットがあります。
仮歯についての注意点

硬い食べ物は避ける
仮歯の主な素材はレジンであり、人工歯に使用されるセラミックやジルコニアに比べて強度が低いため、氷やおせんべい、ナッツ、スルメなど硬いものを噛むと、欠けたり割れたりする危険性があります。
治療のやり直しになることもあるため、特に注意が必要です。
粘着性のあるものも避ける
キャラメルやガム、餅などの粘り気の強い食べ物も、仮歯が歯から浮いたり外れたりする原因となります。
噛んだ時に吸着力が働いてしまい、仮歯がズレたり、接着剤が剥がれてしまったりするリスクがあるため、仮歯の期間中は控えるようにしましょう。
仮歯はあくまで治療中の仮の歯
見た目には人工歯のように整っていても、仮歯は治療の過程で使うものであり、最終的な仕上がりとは異なります。
噛み合わせや歯並び、色味や素材感などはあくまで仮のもので、調整や検証を行うためのものだという点を理解しておくことが大切です。
清掃は丁寧に行う
仮歯の周囲には、歯肉との境目や接着部にプラークが溜まりやすくなります。
むし歯や歯周病、炎症のリスクを避けるためにも、柔らかめの歯ブラシやフロス、歯間ブラシなどを使用して、毎日の清掃を心がけましょう。
特に歯肉が形成されている最中は、傷つけないよう配慮が必要です。
異常を感じたらすぐに歯科医院へ
仮歯がグラついたり、取れそうになったり、咬んだ時に違和感や痛みがある場合は、そのまま放置せずに早めに歯科医院に連絡しましょう。
軽度なトラブルであっても、放置することでインプラント本体に負荷がかかることがあります。
自己判断で外さない
仮歯は簡易的な接着剤で留められていることが多いため、舌や指で動かそうとしたりするのは避けてください。
また、取れてしまっても自己判断で装着し直すのは危険です。 必ず歯科医師の指示を仰ぐようにしましょう。
定期的なメンテナンスを受ける
仮歯の期間中も、定期的に歯科医院でのチェックを受けることが大切です。
仮歯の適合状態や噛み合わせの変化、歯肉の状態などを確認することで、最終的な人工歯の完成度を高めることができます。
本番の人工歯とはどう違う

素材の違い
仮歯は主にレジンという樹脂素材で作られており、比較的安価で短期間の使用を前提とした構造になっています。 そのため、強い咬合力にはあまり向いていません。
一方、最終的な人工歯ではジルコニアやセラミックなど、審美性、耐久性に優れた高品質な素材が使用されます。
これにより、長期間の使用にも耐えられる仕様となっています。
精密さの違い
仮歯は比較的簡易的な工程で作られることが多く、形状や噛み合わせは仮の段階で調整するための目安として利用されます。 そのため、審美的、機能的にはある程度の完成度にとどまるのが一般的です。
これに対して、最終的な人工歯は精密に作製されます。個々の噛み合わせや顔貌に合わせた微細な調整が施されるため、違和感が少なく快適に使用できます。
装着方法の違い
仮歯は治療過程での調整や取り外しを想定しているため、着脱可能な設計になっていることが多く、必要に応じて簡単に外して修正を加えることができます。
これにより、歯肉の治癒状態や噛み合わせの変化に柔軟に対応できるというメリットがあります。
一方で、最終的な人工歯は、ネジによるスクリュー固定やセメントによる接着固定など、よりしっかりと固定する方法が採られます。
仮歯の費用について

仮歯の費用は、インプラント治療のプラン内容や使用する素材、作製方法、そして装着する本数によって異なります。
多くの歯科医院では、仮歯の作製費用をインプラント治療全体の費用に含めていますが、特に審美性が求められる前歯部や、長期間使用する仮歯については、別途費用が発生するケースもあります。
一般的な仮歯の費用は、1本あたりおおよそ5千円〜2万円程度が目安とされています。
簡易的な仮歯であれば比較的安価ですが、審美性や耐久性を高めた仮歯を使用する場合は、1本あたり15,000円以上になることもあります。
さらに、仮歯を繰り返し調整、作り直す必要があるケースでは、追加費用が発生することもあります。
事前に見積もりや費用内訳をしっかり確認しておくことが重要です。
歯科医院によっては素材の選択肢が複数あり、それによって費用が変わることもあるため、見た目や使用期間を踏まえて最適な仮歯を選ぶとよいでしょう。
仮歯の重要性を理解して、
インプラント治療を
成功に導くために

インプラント治療中に装着される仮歯は、単なる仮の歯ではありません。
治療の過程で機能や見た目を一時的に補うだけでなく、最終的な人工歯の精度をあげるための重要な処置です。
仮歯の装着期間中に噛み合わせや歯肉の形態が整えられ、上部構造の設計に必要な情報が収集されます。
これにより最終補綴物のフィット感や審美性が向上し、満足度の高い仕上がりにつながります。
また、仮歯はレジン製であり、強度や耐久性は本歯に劣るため、使用中の取り扱いにも十分な注意が求められます。
硬いものや粘着性のある食材を避け、日々の清掃を丁寧に行うことで、トラブルを回避し、安定した治療結果につなげることができます。
治療の質を高めるためには、仮歯の目的や役割をしっかり理解し、患者様ご自身もその重要性を意識することが必要となります。